日本外来臨床精神医学会(The Japanese Society of Clinical Outpatient Psychiatry:通称 JCOP)では、主に精神科外来を臨床の場として活躍している医師、臨床心理士、看護師、精神保健福祉士らを中心に「外来精神医学」を基盤として技術の向上・研鑽を目的とした活動を行っています。
新理事長就任のご挨拶
日本外来臨床精神医学会 理事長 里村 淳
この度、日本外来臨床精神医学会の理事長を拝命した里村です。就任にあたり、一言ご挨拶を申し上げます。
当学会は、通常の学会と異なり、臨床での新知見、いわゆる「Neues」を求める学会ではなく、精神科医の日常臨床のスキルアップを目的とした学会です。したがって、学会というより研修会といった性格の強いものです。そのため、症例検討を重視し、実例をとおしてお互い学び合うという姿勢を保ってきました。
臨床は経験と言われますが、経験から何かを学び取っていくことが大切で、同じことの繰り返しでは進歩がありません。つねに自己の臨床を検証してみる姿勢が大切です。とはいえ、忙しい毎日の診療でそのようなことを実践することはやさしいことではありません。そこで、ときには症例検討をとおしてほかの人の意見を聞き、批判を受けることが臨床家としての成長に必要ではないでしょうか。教育的な講演を聴いて知識を増やすことを自己の研鑽の機会とするという意味では、こんにちでは選ぶのに困るほどの講演会があります。しかし、症例検討を軸にしたものは数少ないのです。そのような意味で、当学会の存在の意味があるのです。
元号が令和に変わって二年目、いよいよオリンピックという、希望がもてる年になったとおもいきや、世界は新型コロナウィルスの脅威にさらされるようになりました。医療はその渦の中にまきこまれ、多くの学会、研究会、会議など人が集まるイベントは軒並み中止となり、当学会も例外ではありません。「自粛」という名のもとに産業、経済はもとより、多くの分野に深刻な影を落としています。こころの健康という面では、コロナDV、コロナ離婚、コロナ不安、コロナうつ、そしてコロナ自殺など、コロナと名の付く弊害が続々と叫ばれるようになってきました。かつての「自殺者3万人」の再来という嫌な予感がよぎります。われわれ精神科医療にはまだ大きな波は押し寄せていませんが、時間の問題ではないでしょうか。
それだけでなく、新型コロナウィルスによる壊滅的な被害を契機に、世の中の在り方が変わって来るような気配もします。はやくも「ポスト・コロナ」という言葉も出ています。その中にあって、精神科医療、とりわけクリニックを中心とした外来精神科医療にはどのような影響があるのでしょうか。このようなことも視野に入れてこれからのわれわれの活動を進めていきたいと思います
2020年6月掲載
本学会について
日本外来臨床精神医学会 前理事長 市橋 秀夫
本学会は、「外来精神医学・医療」の確立、発展をめざして、精神科臨床医有志が2001年に「外来臨床精神医学懇話会」を設立し、2003年に「日本外来臨床精神医学会」へと発展した集まりです。
本学会の目的:
1)現代、増加しつつあるうつ病や、適応障害、神経症性障害、統合失調症、小児思春期の患者さんに従来の病院でなく、地域で早期の適切な治療の実践の向上と研究を行う。
2)医学一般科で広く行われてきた地域医療を精神科分野でも実践し、精神疾患治療の敷居を低くし、市民の精神健康を守り、疾患の予防に結びつける。
3)精神科臨床医が、孤立することなく相互に連携し、進歩する薬物や、新しい検査法もとりいれて、最新の医療情報をもって、治療技法の研鑽をはかる。
本学会は、こうした目的をさらに発展させるため多くの努力をしています。常に社会の変化や、人びとのニーズを考慮して、近年注目されている、発達障害や、学校保健や、休職者の復職、家族の問題なども重視して研究会などを開いています。
ベテラン会員の豊富な経験とともに、新鮮な息吹と情熱をもつ若い先生方の討論で常に進歩をめざしています。
最近は、上記の目的のためには、医師だけでなく、臨床心理士、臨床薬剤師、精神保健福祉士などコメデイカルの方々と協力が絶対に必要だという認識にたって、これらのご専門の方々のご参加も求め、さらに広く深い視野を得て、大いに発展することを期しています。 本会は、これまで毎年数回ずつの研究会とケースカンファランス、全員の学術大会を開き、和やかな雰囲気のうちに、忌憚のない討論を行い、参加者それぞれが豊かな成果を得て、各自の臨床に持ち帰って臨床レベルの向上をはかっています。
また機関誌も刊行し、患者家族向けのパンフレットも現在まで8冊刊行し、外来向けの症例集も計画しています。現在会員数は110名ですが、なお増加しつつあります。学会としてきちんとした規約や理事会、選挙規則も整備しております。 多くの方々の賛同とご参加をよろしくお願い申し上げます。
2019年5月掲載